ゼロ年代ベストSF『ハーモニー』と『虐殺器官』

  • 2010.02.25

早川書房の『SFが読みたい!』のベストSFランキング国内編にて2009年第1位に選ばれた伊藤計劃の『ハーモニー』と、同じく2007年第1位の同作者『虐殺器官』を読んでみました。(2008年第1位は貴志祐介の『新世界より』)

ハーモニー (★★★★☆)

ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

著者/訳者:伊藤 計劃

出版社:早川書房( 2008-12 )

定価:¥ 1,680

Amazon価格:¥ 1,680

単行本 ( 354 ページ )

ISBN-10 : 415208992X

ISBN-13 : 9784152089922


核によるテロ<大災禍>により絶滅の危機に瀕した人類は、体内インストール型医療分子により全ての病苦を克服し、医療制度を中心とした理想社会を構築したという舞台設定のもと、そんな社会への抵抗として餓死することを選択した3人の少女の物語。

ただ本書はそこらへんのSF小説とはひと味もふた味も違います。まず、1P目から驚かされるのは本文の随所にHTMLの構文を模した仮想言語:ETML=Emotion-in-Text Markup Languageによるタグが挿入されていることです。HTMLを見たことない人はもうここで読む気なくなるかもしれません。次いで登場人物の名前がやばい、御冷(みひえ)ミァハとか霧慧(きりえ)トァンとか零下堂(れいかどう)キアンとか痛すぎます。他にもやたらと当て字が出てきたりと厨二病全開で、あれれこれはやばいなと不安にさせられます。とか言いながらも100P前後まで読み進んでいくとそれらの違和感もだんだん薄らいでいき、むしろ後半ではそれらが作品の世界観を感じる上で必須な要素に思えてくるから不思議です。ETMLへの言及はネタバレになるので読んでからのお楽しみで。

人工知能が自我に目覚めたり、反対に人間の脳を電脳化したり、「人間の心はどこにあるのか」「意識(わたし)とは何か」をテーマとした作品は多いですが、本作も独特の解釈で読者を魅了します。行き過ぎたソーシャルネットワークによる相互監視社会、高度医療領域のモラルハザードなど大小様々なテーマも盛り込み、技法的にも内容的にも新境地を開いてくれるまさに名作に相応しい作品です。

虐殺器官 (★★★★☆)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

著者/訳者:伊藤 計劃

出版社:早川書房( 2010-02-10 )

定価:¥ 756

Amazon価格:¥ 756

文庫 ( 432 ページ )

ISBN-10 : 4150309841

ISBN-13 : 9784150309848


こちらも大規模テロにより荒廃した近未来が舞台です。対テロ特殊部隊の一員としてさまざまな任務をこなしていく”ぼく”は、各地で繰り広げられる大虐殺の影に常にある人物が関わっていることに気付く。その人物は何者なのか、なぜ平和に向かっていた人々が突然殺し合いを始めるのか…って話。

タイトルからも連想される通り死体は山積で、グロテスクなシーンが多いです。テロ行為からの安全とトレードオフで受け入れた監視社会、ミッション達成のためテクノロジーを使い痛覚だけでなく心まで無感覚にすることを受け入れた主人公たち、9・11以降の緊迫感をSFとしてデフォルメして伝えてくれます。また、生物の進化、生存本能、脳科学、哲学、言語などを奥深いテーマを絡めた”虐殺器官”の存在は単なる戦争アクションモノで終わらせません。

追悼

残念ながら伊藤計劃の新作を読むことはもうできません。著者は34歳の若さで肺癌で亡くなりました。自らは癌に蝕まれ死の影を感じながら、あらゆる病苦を克服した世界を舞台にした『ハーモニー』を執筆されたそうです。遺作『ハーモニー』は第30回日本SF大賞、第40回星雲賞日本長編部門賞を受賞しています。

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Comments

  1. ごーや

    ここを読んで「ハーモニー」を読んでみようと思ったのですが、本屋で見て「虐殺器官」のほうにしました。舞台はSFなんだけど、背景は近未来ではあるけど現実的で、話は繊細なヒューマンドラマというか…不思議な小説です。
    概ね難しい部分が多く、読破が危ぶまれましたが、読んでいくうちに頭の中に映像化されていき…イッキに読めてしまいました。
    映画化しないかなー。

  2. ColdSleep

    > ごーやさん
    単なるアクション小説で終ってないところがいいですよね。ぜひ映画化してほしいですねー。

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